専用竿の汎用性(2)

 タチウオ竿のちょっとお徳なお話では、竿の使いまわしの話を書きました。これを読んで、「そっか、竿は少なくても十分なんだな」と考えられた方もいるかと思います。これはある意味では正しいです。私の拙文で言いたかったことは、まず「固定観念を捨てることが必要」ということです。ヤリイカはヤリイカ竿がないと釣れない、とか、キスはキス竿がないと釣れない、ということはないんです。竿の名前に縛られると、こういう感覚に陥ることがある、ということ「も」言いたかったわけです。「も」というのは、最終的な目的としては、ここの散文では「竿選びのポイント」という壮大なテーマ(?)の結論をだしたいという目論見がありました。さて、こういう大それたテーマをどこまで書ききれるやら…

弘法だって筆を選ぶ

 まず、「竿は使いまわせばそれで充分」という結論を出すのはちょっと待ってください。まだ続きがありやんす。一本の竿でなんでもかんでも釣ってやる、これは安上がりですし、弘法筆を選ばずみたいでちょっとカッコいい。しかし、竿を使いまわしても、その釣りに特化した竿には敵いません。その釣りにベストにフィットした竿を使うのが、釣果をあげる、そして釣趣を楽しむにベストな方法なんです。

 「おいおい、じゃあ先に書いたのは何の意味があんの?」と混乱させてしまったかもしれません。それでも、竿を使いまわすのは大きな意味があるんです。それは、自分の釣りにあった竿を見つけるためのアプローチでもあります。

汎用性の追求=専用性の追求

 先に書いたように、一本の竿を使いまわしてもそれなりに使うことができます。そして、それなりの釣果を得て、それなりの釣趣も楽しめると思います。そして、一本の竿をあれこれと使っているうちに感じることがあるはずです。「もっと穂先が柔らかければ、小さなヤリイカの乗りが取れるのに」「あとちょっと短ければしゃくった後の竿先が安定するのに」。これが、小さな不満、言い換えれば、「竿の欠点の認識」です。

 これらの不満は大きなハンデになりません。釣りに慣れると、ちょっとした竿のミスマッチくらいは釣り方や竿の操作でカバーできるからです。これが、「竿に合わせる釣り方」です。「小さなヤリイカの乗りをとるために、穂先をゆーーっくり動かそう」「しゃくった後のポーズをする位置を下げて穂先を安定させよう」など、釣り方を竿の特性に合わせるわけです。

 「竿の欠点の認識」ができれば、その釣りにはどんな竿が適しているかがわかります。
 「竿に合わせる釣り方」ができれば、その釣りに対する理解が深まります。

こうなってはじめて、「俺は、あんな竿を使って、こんな釣り方をしたい」というのが明確になるわけです。竿と釣り方の好みは百人百様といってもいいでしょう。激しく誘う攻めの釣りが好みで先調子の操作性を選ぶ人、じっと待つ受けの釣りが好みで食い込みのよい穂先を選ぶ人、いろいろいるかと思います。これが「釣りのスタイルの確立」なのです。

 ここで、その釣り専用の竿を買いましょう。

きっと、あなたの好みにぴったりの竿が選べるはずですし、きっと、長く使える竿になるでしょう。

自分に合う釣りを探すための使いまわし

 つまり、竿の使いまわしは、自分にあった竿を知るまでのリサーチ手法でもあるわけです。それと同時に自分の好みの釣りのリサーチにも役立ちます。沖釣りはターゲットが数多いです、そして、釣り方もさらに多いです。ターゲットと釣り方の組み合わせを考えると、膨大な数になります。まずは、竿をつかいまわして色んな釣りにトライしてみましょう。中には自分には合わないな、好みではないな、という釣りもあるかもしれません。そういう釣りであれば、あえて道具を追求する必要もないでしょう。数多くの釣りにトライすれば、「これが俺に向いている」という釣りが必ずあるはずです。それを見つけるには、道具にあれこれこだわるよりも、まずは船に乗って場数を踏むことです。そのための竿の使いまわしでもあるわけです。

逆説-専用竿は専用ではない

 専用竿は専用ではない、というと「なんじゃそら」と思われるでしょうか?専用竿は名前を冠するだけあって、その釣りに特化しているものが多いです。しかしそれは、その釣りの最大公約数的な要件を満たしているという事でもあります。なぜなら、先に述べた個人の釣り方の差、それに釣り場、季節による差、さらに大きいのは釣り人の体力差があり、これらを加味すれば、同じ魚種を釣るのにも竿に求められる要件は変わってくるからです。

 例えば、マダイ竿をとっても三浦半島と伊豆では違います。アジも浅場と深場で違います。頑強なツリオヤジと華奢な女性ではパワーが違います。例えば、ワラサを釣りたいとしましょう。まず目にいくのがワラサ竿、たいていのメーカーでは3m前後でオモリ負荷80号くらいのモデルをラインナップしています。これはワラサの引きをがっちり受け止めて遊ばせず、効率的に釣るには最適の竿です。しかし、それはある程度の体力あっての話です。女性や子供ではこの長さは使いこなせない場合があるでしょう。また、松輪のように80号オモリで比較的静かな海で釣る場合と、下田のように外海で100号オモリで狙う場合とは適した竿も違ってきます。

 マダイ釣りは置き竿釣法のために、胴調子の長竿が主体でした。マダイ竿を銘打った竿は多少に違いこそあれほとんどがこの調子。これだと置き竿ではいいのですが、コマセをピンポイントで振るのに難があります。私は1990年代の中頃は2mの短い竿でコマセダイをやっていました。なによりもコマセワークを重視した釣りをしたかったためです。手持ち釣りが流行し始めたのと、この釣り方にはある程度の結論がでたので、現在は置き竿釣法に戻っていますが、マダイを一番確実に釣っていたのは、この2mの竿を使っていた頃でした。釣り仲間からはバカにされ(笑)、初めて乗る船の常連さんらからは初心者扱いされる日々でした^^;が、この頃の経験は長竿を使う今でも生かされていると思います。専用竿を無視した一例です。

 こんなことを書くとひねくれもんだと思われそうですが(実際にちょっとひねくれてるかも^^;)、釣りによっては専用竿の恩恵を受けているものもあります。スミイカは専用竿に限ります。これまで5種の専用竿を試し、さらにはカワハギ竿などの竿も使いまわしてみましたが、この釣りは他の竿を使いまわしても専用竿には遠くおよびません。釣り場、釣り方が限定されているという理由もありますが、専用竿の専用性が高い一例です。

どんな竿が欲しいの?の問いに答えられますか

 さて、新たなターゲットを釣ろう、竿は何を使おう。そういう時には選択に困ることも多いでしょう。釣具屋の店員さんに相談して選んでもらう、釣り仲間にアドバイスしてもらう、つり丸を読んで参考にする^^;、これらの方法はすべて正解だと思います。しかし、自分の知識と自分の経験により、自分の選択ができるようになると、釣りの楽しさがグーンと広がり、釣りへの理解もズドーンと深まります。ここではそのためのプロセスの一例を挙げたつもりです。

つづく^^;

本稿に関する御意見、御感想をお待ちしております。メールいただければ内幸町^^;。

2001/5/19 Yasuhiro Ii

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