餌木に惑わされるのはアオリだけで十分

 いつの間にか大ブームになったのが船からのアオリ釣り。手軽にできる釣りもののバリエーションが増えたのはツリオヤジにとって喜ばしいことではあるけれど、次から次へとでてくるアオリ名人、アタリ餌木はああだこうだと御託を並べる人、この餌木は乗り渋りに効果あるなどの能書きをたれる人、まさにブーム極まれりという感じです。

 船からのアオリ釣りは一部活き餌を使う船もありますが、ほとんどは餌木による釣りになります。もともと仕立中心の釣りで、洲崎や熱海など一部の船で行われていたマイナーな釣りでしたが、相模湾で乗合が始まったのは1995年のこと、次いで東京湾でも乗合の出船が始まりました。開始当初は大型船によるアオリ釣りの攻め方も今のように確立されておらず、かなり試行的な釣りでした。これをやるのはかなり物好き、言い換えれば好奇心の旺盛な人、一日やって船中0杯もあり、そういう釣りでした。それでも4kgの超怒級のアオリが顔をだしたり、楽しい時代でした。

 この釣り、餌木は非常に重要なアイテムで、釣果の半分くらいは餌木の良し悪しが決めるといって過言ではありません。それだけ、餌木への興味を持つ人が多いのも事実。しかし、餌木についての情報が氾濫していて、中にはかなり怪しい情報があるのもまた事実。ここでは餌木選択に対する私の意見を書いてみます。

色にこだわってはいけない

 あえて最初に結論を書きました。「なんで?ピンクとオレンジによく乗るんでしょ?」そう思われるかもしれません。確かにピンク、オレンジのカラーは実績が高い餌木でしょう。では、それ以外の色、赤、緑、青、オリーブなどはなんのためにあるのでしょうか?

 澄み潮には緑とか、日中は青とか、いかにもカラー選択があるようなことを言う人がいます。しかし、はっきり言えばそんなパターンは確定していません。あえて最適な色は何かといえば「イカに好まれる色」、これだけです。つまり、イカに聞いてみないとわからない。

 アオリが好む色は、光の条件、潮の濁り具合、底の砂の色、海草の有無、アオリが捕っている餌、などなど多くのパラメータによって変わります。その時点で乗りが良い色は存在するけど、それがどの色かは特定できません。あと1000回くらいアオリ釣りをやれば多少は見えてくるのかもしれないけど、今の時点ではイカに聞かないとわからない。それだけ不定なパターンです。青に大型が乗ったかと思えば、緑が一人勝ちのときもあり、オリーブにばかり乗ってくるときもあるし、数え切れないほどのパターンの集合なのです。

初心者ほどアタリ餌木に固執する

 つまり、アタリ餌木というものはないと思った方がいいのです。そんなものにこだわれば「他人にばかり乗る、彼はアタリ餌木を使っているのだ、私にはそれがないから釣れない」こんなネガティブな思考パターンに落ちるのが関の山です。まずは自分の道具で何ができるかと考える、これがもっとも大事なことです。難しく考えることはありません。アオリ釣りはとてもシンプルな釣りなのです。行うことはひとつ、「その日のベストパターンは餌木のローテーションで見つける」。これでOK。自分の持っている餌木を変わる変わる使ってみてください、アオリが乗ってくる餌木、それこそが船の下にいるアオリが好んだ色のわけです。

色の代わりに実績にこだわれ

 そうして経験を積むことにより、アオリが乗った餌木が何本もでてきます。これらはなんらかの理由によりアオリが好んだ餌木なわけです。これらの餌木を中心にローテーションを組めば、よりアオリに好まれる可能性が高いパターンを確立できます。ここで大事なのは、どういう場所でどういう状況で乗ったかを覚えておくことです。長井沖の朝まずめにこのオレンジに乗った、雨の日の城ヶ島沖の帰り際に青に乗った、澄み潮で蛍光色に乗ってきた、これらの実績を覚えておいて、次回からはその時間帯にはその餌木を使うことです。毎回同じパターンで乗ってくることはありません、むしろ一度乗った餌木でも乗らないことの方が多いです。それでも、過去のパターンを覚えておくことは、アオリに好まれる餌木を発見する確率アップにつながるわけです。

外面だけを見るべからず

 さて、色だけがクローズアップされがちな餌木ですが、実はそんな単純なものではありません。もうひとつのパラメータは「下地」これが色と同じくらい大事です。そして、下地は表地との組み合わせで効果が変わってきます。下地には赤や金色が使われます。また表地は無地、縦縞、横縞、市松など多くのパターンがあります。これらの組み合わせは膨大な量です。どの組み合わせが良いかは私はここで書くほど理解はしていません、しかし、餌木作りの職人は実績からこれらの最適パターンを知って餌木を製作しているわけです(職人によって作られる餌木は市販品のうち僅かですが)。

 ひとくちにオレンジの餌木といっても、下地が金の餌木には乗って、下地が赤の餌木には乗らないということはざらにあります。無地には乗るけど縞模様には乗らない、これもよくあります。そして、その逆のパターンもあるわけです。状況によってこれらのパターンをすべて把握して釣りをすることが可能でしょうか?あと10000回くらいアオリ釣りをしたら少しはわかりそうな気がしますが、そうでもなければ下手にパターン分析をするのは時間の無駄になることが多いです。

 そしてもうひとつ忘れてならないのは餌木の水中姿勢。良い餌木と悪い餌木の差はここにでます。いかにもアオリが好みそうな色でも、水中での動きが悪ければ効果は半減。風呂で泳がせて餌木の動きを見ることはできますが、人間が良いと思った餌木とアオリが好む餌木とはまた別の話。餌木の動きの良し悪しもまた、過去の実績で選ぶしかないです。

 結局、我々トーシローが餌木を選ぶのは、しっかりした職人さんが作った実績のある餌木に、自分の経験を加味して自分なりの餌木パターンを確立するということになります。ここで餌木を選んで、それに自分の経験を入れることこそ、アオリ釣りの楽しさのひとつであると私は考えています。
 繰り返しになりますが、自己中心的な理屈を組み立てて餌木を選ぶことは効果ありません。そういうことを考える暇があれば経験を積みましょう。

餌木以外の要素も大切

 餌木の色ばかりにこだわられることが多いアオリ釣りですが、この釣りは擬似餌の釣りであるということを忘れてはいけません。どんなに良い餌木でも、釣り人がちゃんとアクションを加えてやらなければただのゴミです。ここでは詳しく書きませんが、しっかりとしゃくりを入れて、餌木を動かすことこそ、色の選択と同じくらい大事なことになります。しっかりしたアクションを加えるには道具選択もまた重要なファクターになりますが、ここでは割愛します。

覚えておくと便利なこと

 まわりで釣れているときに、あえて違う餌木を使うということがあります。アオリ釣りは船を流す釣り、すなわち潮先の人からアオリのいる場所に入り、先手を取れるアドバンテージがあります。実際にはアオリはなんでもかんでも餌木に抱きつくわけではないので、潮先のアドバンテージは絶対的なものではありませんが、それなりの有利さがあります。潮先に名手に座られると、潮上の人は苦戦をすることがあります。このときに使うのがあえて違う色の餌木を選択する方法。これは、すべてのアオリが同じ色を好むのではないだろうという仮定のもとにとられる方法です。

 例えば、アオリが10杯泳いでいたとします、このうちの7杯はオレンジが好きなアオリだけど、うち2杯は緑が好きかもしれない、1杯は青が好きかもしれない、ならばオレンジ好きのアオリは潮先の人にまかせて、個性はの緑、もしくは青好きのアオリを狙おう、という考え方です。擬人化を含む危険な仮定のもとの方法ですが、それなりに効果的だった経験も多くあります。

先糸10m

 私はPEラインでアオリを釣るのは嫌いです。というのは、バラシが多いからで、伸びのないPEを使うとどうしても大型のアオリのバラシが多いです。しかし、リールを使い自ら棚を取る釣り、あるいは上からの棚取りではメーターマークは便利です。PEの糸の伸びを解消するには、先糸にナイロンの7号を10m付けることをしています。これにより適度な伸びが得られ、バラシは激減しました。

 この先糸10mを使うメソッドはもともとメバル釣りが得意な釣友が行っていたのですが、それをアオリのリール釣りに応用したところ、実に具合が良かったです。さらに、潮に乗りやすいため、しゃくり自体も楽になりました。これを読んだ方には一度試していただきたい方法です。欠点は10m以下の棚で目印が使えないことです。もちろん、オールナイロンで目印を編みつけるのがベターではありますが、先糸10mの方法は手軽に仕掛けを作れるメリットがあります。

アオリ釣りは難しくない

 いろいろ書きましたが、最後にはっきりと言っておきたいのは、アオリ釣りは難しくない、ということです。餌木の情報にあれこれ頭を悩ませる必要はありません。最初は自分で気にいった餌木を使うので構わないのです、そして経験を積むことにより、自分のパターンが見えてきます。人の真似ではなく、自分の経験から釣りを組み立てていく、アオリ釣りに限らず他の釣りにも通じる楽しさだと思います。

 釣り自体はシンプル、道具立てもシンプル、アオリが乗ったときの快感はやみつき、食味はイカの中でトップクラス。いいことづくめのアオリ釣りをよりシンプルに楽しんでください。

2002.12.10 Yasuhiro Ii

Topへ

inserted by FC2 system