イカは種類が多くてややこしいという人のために
--- これを読めば貴方もイカオヤジ ---
1. 釣りの対象となるイカの分類
沖釣りの対象になるイカを中心に分類してみました。これを見るとわかりますが、イカオヤジはほとんどのイカを地方名で呼んでいます。和名で呼ぶことが多いのは、スルメとヤリとアオリイカ。この地方名主体の呼び方がイカの名称のわかりにくさになっているわけです。2.以降にその解説をしてみます。
科名 | 和名 | 地方名 |
コウイカ目 コウイカ科 |
コウイカ | スミイカ(東京湾、相模湾) |
カミナリイカ | モンゴウイカ | |
シリヤケイカ | ゴマイカ | |
ツツイカ目 ジンドウイカ科 |
ケンサキイカ | アカイカ(伊豆、大原) |
マルイカ(東京湾、相模湾) | ||
メトイカ(相模湾西部) |
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ジンドウイカ(沼津) | ||
ヤリイカ | ||
アオリイカ | バショウイカ | |
ミズイカ | ||
モイカ | ||
ジンドウイカ | ヒイカ | |
ツツイカ目 アカイカ科 |
スルメイカ | マイカ(長井、他) |
ムギイカ (東京湾、相模湾) | ||
ニセイカ(相模湾) | ||
アカイカ | ゴウドウイカ(茨城) | |
ムラサキイカ(茨城) | ||
スジイカ | ||
ツツイカ目 ソデイカ科 |
ソデイカ | タルイカ |
セイイカ |
2. アカイカについて
アカイカと聞いたときの人の反応はふたつあります。「刺身は美味しいですね、柔らかくて甘くて」、「ああ、イカフライに使うやつね、刺身じゃ食べない」、あれれ、まったく逆。どうしてこう反対の印象をもっているのでしょうか?それは1.の表をみてください。美味しいという人は、地方名のアカイカを言っているわけで、加熱用だと思っている人は和名のアカイカのことを言っているわけです。
和名ケンサキイカは刺身のほか、白するめや五島するめのように干物としても高級品扱いされるイカです。それに対して和名アカイカはスーパーでロールイカとして売られているように、主に加熱調理、加工品として利用されるイカです。
ツリオヤジがアカイカと言った場合は、和名ケンサキイカのことを指します。和名アカイカをアカイカと呼ぶことはまずありません。和名アカイカはムラサキイカと呼ぶことが多いです。
さて、アカイカというのは体が赤いことが由来ですが、地方によっては同じく体が赤いスルメイカのことをアカイカと呼ぶこともあります。体色が赤いイカは多いのでややこしいですね。
3.マルイカはケンサキイカ?
長井や久里浜で釣れるマルイカは名前の通り、丸っこくて、ヤリイカに比べて淡い飴色のイカです。これに対し、伊豆で釣れるアカイカ(ケンサキイカ)は細長い体型で大型、色も真っ赤と、一見別種のイカに見えます。
これらのイカが同種であるとの結論を出したのが、1991年に大陸書房から発刊された「イカ釣り入門」で、編集人の丸岡文雄氏(現つり丸編集部)の以下のコメントがあります。
「奥谷先生のご協力を得て、東京湾のマルイカと沼津のジンドウイカは同種でることがわかり、標準和名のケンサキイカという事が判明した。ただし、これらの生態に関しては、不明瞭な点が多く、東京湾の通称マルイカ、沼津のジンドウイカ(誤称)はなぜ幼体ばかりで伊豆諸島方面のような成体がいないのか、その回遊経路など詳細は不明だという」
奥谷喬司教授(当時東京水産大)は、つり丸にも創刊からイカの記事を連載なさっていた方で、イカ博士の愛称を持ち著作も多い、この道のオーソリティです。「イカ釣り入門」の発刊により、マルイカはケンサキイカと同種ということが釣り人の間では浸透しました。つまり、マルイカはケンサキイカの幼体ということです。これが現在の通説になっています。
しかし、1999年、Boat&Reel夏号で、奥谷教授はアオリイカについて3種の別種に分かれるという記事を書かれています。その中で、ケンサキイカについて、以下に引用する考察を書かれています。
「関東のケンサキイカは関西〜九州のケンサキイカに比べ、小さいサイズで成熟してしまう。これなど、もしかしたら前文のアオリイカの話の中で述べた隠れた別種などかもしれない<中略>今後DNAなどを調べていくと意外なことが判ってくることが期待できる」
現在イカオヤジの中では通説となっている、東京湾マルイカ=伊豆のアカイカ、について、今後別種とされる可能性があるということでしょう。イカの生態については、まだまだ謎が多いのが実際のようです。我々ツリオヤジは、イカを釣りながら研究者の調査結果に注目していくことにしましょう。
4.マイカとスルメイカについて
このページを読んだいただいた長井漆山港すえじ丸の女将さんから、貴重な情報をいただきました。
「スルメイカの呼び名に一言いいでしょうか。家ではスルメイカという呼び名にしたのは新聞社の人に言われたからです 。それまではマイカという呼び名で新聞に釣果を出していました 。スルメイカは乾物屋さんで売っているのがスルメイカであって生の時はマイカであると ここら辺の漁師もマイカで通っています。どちらが正しいかは解りませんが。余談ですが一言申し上げました」
実はスルメイカをマイカという事があるのは知っていました。ただしそれは「マ(真)」が頭につく呼称は、例えばマダイ、マアジ、マイワシのようにその種を代表する魚が冠する名前で、イカの場合は和名にマイカはなく、その土地で最もメジャーなイカに冠するものという私の類推がありました。実際に文献によってここらの別名が違ってきます。
「スルメイカは別名マイカ、ムギイカという」(魚料理のサイエンス)
「地方名:マイカはスミイカ」(釣り魚料理事典)
ただし、マイカと呼ばれるものはほとんどがスルメイカと考えていいと思います。スルメイカ以外をマイカと呼ぶのはレアケースかもしれません。
いずれにせよ、干物をスルメ、生をマイカと呼ぶのは私は初めて聞きました。これは正しい正しくないという話ではなくて、その土地による呼称の違い、すなわち文化を表している興味深い一例かと思います。
相模湾、東京湾では初夏に獲れる小型のスルメイカをムギイカという名称で呼びます。麦秋の頃に釣れることから麦イカという、風情のある名称だと思います。ここらへんは盛川編集長の著書「旬の釣魚百彩」に詳しいですので御一読ください^^;。
さらに、春先に釣れる中型のイカを相模湾ではニセイカと呼ぶことがあります。これはスルメの産卵期の個体差(群れの差)により、早く生まれたスルメイカがメジャーな群れよりも大きく成長したものだそうです。ニセイカの語源は二世イカだとか。
スルメイカも、釣り人の間では様々な呼称がありますが、これもまた楽しいことだと私は考えています(^^)。
*参考文献
「イカ釣り入門」 1991年2月 大陸書房(廃刊)
「イカ釣り大百科」 1999年3月 週刊釣りサンデー別冊
「Boat&Reel 1999夏号」 1999年7月 つり人社
「魚のなまえ」 1993年1月 つり新書
「釣り魚料理事典」1989年11月 西東社
「魚料理のサイエンス」1995年8月 新潮社
「旬の釣魚百彩」 1994年10月 主婦と生活社
以上は関東のツリオヤジの呼称中心にまとめてみましたが、これ以外にもイカの別名は数多くあります。例えば、横浜ではケンサキイカはダルマイカの名前で市場に流通したりします。山陰では、ヤリイカやケンサキイカをシロイカ、ブドウイカと呼ぶ場合もあります。各地方、業種により、イカのaliasは非常に多いわけです。
また、釣りの対象になるイカでも、上記以外にもいます。鴨居でスミイカ釣りに交じる、ヒメコイカ(ヒメコウイカ)、カミナガ、三浦半島にいるベンケイなどの甲を持ったイカについては、まだ不明なことも多いです。これらについて御教示いただける方は、私までメールいただけると幸いです。
イカ釣りについては、種類によって、季節によって、港によって、釣り方は様々です。また、旬や料理法についても書くことは多いです。一般消費者には「イカ」のひとことで片付けられる事が多いですが、沖釣りを趣味とする人達はこの奥の深いイカについて接するチャンスがある人達です。ぜひイカ釣りについての知識を深めてください。機会があれば、釣り方や料理法も紹介しようと思っています。
2001/2/20 Yasuhiro Ii - 21st Century Squid Man
I love King Crimson. :-)