上級者編

買ってきたばかりの包丁は切れない

しのぎを慣らすまで

本焼について

本焼きについて(2)

・天然砥石の知識

・砥石の狂いの見分け方

・三面を使う面直し

・ふぐ引きの魅力

・焼きと水入れ - 包丁ができるまで -


・買ってきたばかりの包丁は切れない

と、ちょっと大げさに言い切りましたが、まったく切れないなんてことはありません^^;。包丁屋さんで刃付けしてもらった包丁は充分に切れます。問題はその後。

店に並んでいる包丁は、たいていしのぎに若干の凹凸があります。これは一度研いでみるとわかりますが、中砥、仕上げ砥をあてていくと、しのぎへの砥石のあたりかたにムラがあるのがわかります。これは微妙なムラで、何度も研ぎを入れることにより、しのぎがぴったりと砥石にあたるようになります。

さらに大事なのは裏押し。買ったばかりの包丁は裏押しがない状態です。これも数度の研ぎを入れることにより、裏押しがつくようになります。

しのぎを慣らし、裏押しをつける。包丁はこうなって初めて本来持つ切れ味がでてきます。単に刃を付けるだけであれば、いろんな方法がありますが、自分の包丁を研ぐにあたってはきちんと面直しした砥石でフラットにしのぎを慣らすことがお勧めです。


・しのぎを慣らすまで

和包丁の切れ味は2つの平面により発生します。ひとつは裏押し、もうひとつはしのぎです。これらが完璧な平面であればあるほど、切れ味が鋭くなります。片刃の和包丁の切れ味が、両刃の洋包丁より優れている点は、この平面を完璧に作りやすいことによります。

買った直後の包丁は、このしのぎに若干のくるいがあります。これは、中砥、合わせ砥と順にかけていったとき、しのぎに合わせ砥があたらない部分があることによりわかります。非常にわずかな凹凸なのですが、一部曇ったようになる箇所があることがわかるでしょう。これがしのぎのくぼみになります。

研ぎを重ねることにより、しのぎはフラットになります。出刃の場合は、毎回中砥をかけるので問題ないですが、刺身包丁の場合もしのぎが慣れるまでは毎回中砥をかけることをお勧めします。しのぎが慣れてしまえば、刺身包丁は毎回の研ぎでは合わせ砥で刃をつけ、たまに中砥をあてるくらいでいいでしょう。

しのぎは包丁の切れ味を左右するのみならず、美しさを端的に表す箇所だと思います。特に霞包丁では、その美しさが際立ちます。しのぎを綺麗に研ぎ上げることを心がけましょう。


・本焼について

いまや高級品の代名詞になっている感のある本焼包丁とはどういうものでしょう?

普通の和包丁は霞造りといって、地金と鋼を張り合わせて鍛えます。これに対して、本焼はオール鋼で鍛えられています。メリットとしては、しのぎの部分の摩擦が同じため、切れ味が良いことが挙げられます。しかし、この切れ味の良さがわかるには、かなりの熟練した腕が必要でしょう。私はふぐ引きで本焼を使っていますが、果たしてこれが霞と比べて切れ味がいいのか、その判断はつかないのが正直なところです。

一度に何十人、何百人分の刺身を引くようなプロならともかく、魚を捌くのは週末くらい、量は家族分+αという釣り包丁人には、本焼の性能を充分に発揮するのは困難と私は思っています。

しかし、本焼の魅力は霞とは違った美しさにあります。しのぎが均一に輝き、鏡面仕上げも可能ですし、本山砥を使えば霞研ぎも可能です。包丁の楽しみのひとつに、使う満足感があるとすれば、それを満たすには充分な魅力を持っていると言えます。総じて焼き入れがしっかりされているため、長切れはします。

デメリットは研ぎにくいこと。霞の場合は、地金が砥石とよく馴染むため、適度な抵抗があり快適な研ぎ心地になります。しかし、本焼の場合はすべて鋼のため、砥石へのあたりが軽すぎる感があります。そして、なかなか刃がおりないため、研ぐ時間も霞の倍以上掛かってしまいます。このため、研ぎを頻繁に入れる出刃では、わたしはとても本焼を使う(使いこなせる)自信はありません。

とりあえず経験を積むために本焼のふぐ引きを使っていますが、実用面では霞をお勧めします。アマチュアにとって、本焼は仕上げ、美しさ、所有すること自体に満足度を得るものであると言っても過言ではないと思います。


本焼について(2)

本焼が高価なのは、ひとつが材料の高さ。地金より高い鋼を100%使用するため高くなります。それよりも大きな理由が焼き入れの難しさです。鋼の場合、洋包丁のように油で焼きを戻すのではなく、水を使うため、鋼の温度管理が非常にシビアなのですが、本焼はさらに鋼100%のためこの作業に熟練を要します。

本焼の鋼の焼き入れは、どこも均等に入れられているわけではないです。鋼の折れやすい特性をカバーするため、地金に相当する部分は焼き入れを甘くして弾性を持たせる必要があります。そうしないと、折れやすい包丁になってしまうからです。刃の部分は切れ味とその持続性を出さなければいけません。つまり、一本の包丁で焼き入れの違う部分が存在するわけです。この技法が高度であるため、限られた職人しか作れず、結果、価格も高くなるわけです。

職人さんの技がこめられた包丁、と言えるかと思います。

こう書くと霞包丁はだめかと誤解されすですが、ひとつ補足しておくと、霞が本焼に比べ、技術的、性能的に劣っているとは必ずしも言えないということです。あくまで包丁を作るのは鍛冶職人の技術で、この技術によって霞でも良い包丁ができれば、本焼でもそうでもない包丁ができたりします。素人にはこれらを見分けるのは無理です。包丁は信頼できる刃物屋から買う、と言われる所以でもあります。

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