長竿釣法の3大特徴

  ここで長竿とは、2.7m〜3.6mのことを指します。従来のアオリ釣りではまず使われなかった長さが、大きく分けて3つのメリットを生み出します。それらを端的に表現すれば、(1)釣れる、(2)疲れない、(3)楽しいの3点です。

長竿釣法のヒント

  なぜ黒川船長は長竿でアオリを釣ろうと思ったか、それは「釣座による差をなくしたい」というのがきっかけです。アオリ釣りは船を流す釣りになります。ポイントに最初に入るのは船の進行方向、すなわち潮先の釣り人になります。潮先の釣り人は、餌木をアオリに最初にアピールできるアドバンテージを持っているわけです。このアドバンテージは絶対的なものではありませんが、特に根回りの型狙いの時期などは、潮先有利が顕著にでることが多々あります。

 潮先は一日を通して変わることがあります。上潮と下潮の変化、風向きの変化などで、ミヨシが潮先になったり、トモが潮先になったり変わるわけです。しかし、胴の真の釣り人は、常に潮先に誰かがいる、という状態になりやすいです。船が横に動く場合であれば、面舵、取舵のどちらかが潮先になりますが、東京湾のように素直な潮の場合、胴の真は潮先のアドバンテージを受けにくいため、様々な工夫が必要になります。ベテランは色々な技を持っていますが、初心者には潮下対策をどうするかが厄介なところ。

 黒川船長は、胴の間の釣り人でも釣れる方法として、長竿を試してみました。実は、たまたま野毛屋に長竿好きの釣り人がいて、その人が長竿でアオリを釣ったことがヒントになったようです。最初は、餌木の位置と動きを変えて効果があるかという試行的なものだったとのことです。しかし、黒川船長が、操舵室(つまり胴の真ん中)で、長竿で釣ったところ、予想外の乗りがありました。潮先の釣り人は型をみているくらいなのに、船長の長竿には6杯、7杯の釣果がでます。客は「船長はさすがに上手い」と 感心するばかりでしたが、船長の考えは「それは違う。アオリ釣りなんてそんなに腕の差がでるもんじゃない。これは長竿の効果だ!」でした。以来、長竿を常連に勧めて、その効果は徐々に明らかになってきました。

 右のグラフは、2005年1月7日から、1月12日までの一週間の釣り人の割合を表しています。黒川船長の推奨もあり、野毛屋では多くの人が長竿を使用していることがわかります。

特徴1 - 「釣れる」ということ

 同様の期間内での、釣果平均をグラフにしてみます。長竿の平均釣果が短竿のそれを上回っていることがわかります。

 では、なぜ長竿が釣れるのか?それは餌木の動きにあります。ひとことで言い表すならば、「長竿は竿の弾力を活用するため、餌木に大きな加速度を与えられる」ことになります。

 弓矢を放つことを想像してみてください。引き絞ることにより弓には曲げる力が蓄えられ、弦を離すことによりその力が一気に解放され、矢には大きな加速度を生じます。この加速度は、弓を手にもって投げるよりも大きなものです。長竿では、しゃくった瞬間に竿が曲げられ、一旦力が蓄えられます。ワンテンポ遅れて竿が戻り、その弾性により道糸が引かれるわけです。これは、短竿で大きくしゃくり上げることに比較して、より大きな加速度を生みます。

 また、水の抵抗は速度に比例します。加速した餌木はその速度に応じた抵抗を受け、短竿の場合より大きな負の加速度を生じます。つまりブレーキが効くことになります。表現を変えれば、餌木にメリハリのある動きを与えることになります。

 これはもうひとつの効果を生んでいます。それは、餌木の移動距離が少ないと言うことです。餌木の移動距離が少なければ、一定時間内にしゃくれる回数は増加します。

 餌木にメリハリのある動きを与えること、餌木の移動距離を小さくすること、この2つの相乗効果により、アオリへのアピール度が増す、というのが現在の考え方です。これは、まだ実際の餌木の動きを水中カメラで確認したわけではありません。今後、水中映像 などでの検証を行う機会をぜひ作りたいと考えています。

特徴2 - 「疲れない」ということ

 鋭いシャクリを繰り返して餌木を踊らすアオリ釣り。リール竿では、リール自体の重さが腕への負担となります。では、「長竿ならなおさら負担になるじゃないか」、そう思われるかもしれません。しかし、長竿では、「竿を振り上げる」のではなく「竿をしならせる」のです。つまり、腕を曲げる角度は、長竿は短竿に比べて短くて済みます。

 また、長竿でのしゃくりは、もうひとつのメリットを生んでいます。それは、両手しゃくりが可能なこと。特に腕力のない女性には、竿尻を脇に抱えての両手しゃくりは効果的です。トレーシーオースチン(古っ!)ばりのダブルハンドで、ロッドアクションをつけてもいいわけです。

 竿の弾力を利用して仕掛に動きを与えるのは、実はコマセシャクリと同じ感覚です。ウィリーを使ったコマセシャクリ(これも最初に始めたのは野毛屋)では、竿の弾力でビシを持ち上げ、穂先の戻りと共にブレーキを掛ける繊細な釣法。これをアオリに応用したのが、長竿釣法と言っても過言ではないかもしれません。


特徴3  - 「楽しい」ということ

 楽しさ溢れる野毛屋アオリ船のワンカット

 釣りは遊びです、楽しくなければ釣りではない。釣り竿を使う釣りの中で、ドキドキワクワクする瞬間のひとつは、竿が満月に絞られる引きを味わうところにあるのを否定する人は少ないのではないでしょうか。

 長竿シャクリで使うのは軟調のメバル竿。この竿に1キロオーバー、ときには2キロオーバーのアオリイカが乗ることを想像してみてください。柔らかな竿はバットから絞り込まれ、今にも折れんばかりの曲がりを見せます。こんな風に竿を曲げる釣りは大鯛や青物くらいで、滅多にないこと。しかし、長竿アオリ釣りでは、この「超タノシイ」瞬間が頻繁に味わえるのです。

 黒川勇治船長がことさら強調していたのもこの点でした。「とにかく竿をひん曲げられて楽しいんだから!」、そう語る勇治船長の目は、船長ではなく釣り人のそれだったことが印象的でした。

 

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