テクニカルな魅力溢れるコマセダイ

マダイ釣りをポピュラーなものにしたのはコマセ釣法というのは誰もが認めるところでしょう。誰でもいつでもどこでも(?)マダイが釣れるようになったのは、この釣法の功績が大です。しかしながら、この釣りは初めての人が大物を釣り上げてしまうこともある反面、食いが渋い、釣り人が多いときにはそれなりにシビアな釣りになります。コンスタントに型を見るには、運ではなく、robustな技術が必要となるわけです。

まずはオススメ書籍^^;

 このHPを書き始めたあと、学研から「必釣!コマセダイ」のAVブックが発売されました。このうちのノウハウ部分を書いたのは川口氏ですが、実はこの本に私の書きたいことのほとんど(さらにそれ以上)のことが書かれてしまっているんですよね。なので、ここではベースラインに触れることはさけます。「必釣!コマセダイ」を御一読いただけるとありがたいです。

 川口氏は私の知る限りでは、現代のコマセダイを統計的、論理的に分析し、実戦に応用されている数少ない釣り人のひとりです。彼はプロではありませんし、自称プロと名乗るハッタリ釣師でもありません。しかし、長い経験から蓄積されたノウハウにより、コマセダイのエッセンスを明解にまとめることに成功しました。私もこのAVブック製作には参加しているので、身内の宣伝になるのが客観性を欠いているところではありますが、「必釣!コマセダイ」はおすすめしたい一冊です。

本を読んでくれ、だけだと身も蓋もないので^^;

 なので、ここでは総論的なコマセダイに関するテクニックに触れてみたいと思います^^;。

ウルトラCはいらない

 コマセダイはテクニカルな釣りです。しかし、そのテクニックはベーシックなものです。

 難しい技はいりません。竿先のモタレでアタリをとったり、微弱なアタリに電光石火のアワセをくれたり、魚をその気にさせる絶妙の誘いを入れたり、一子相伝の秘密の仕掛けを使ったり、などなどのウルトラCテクニックはこの釣りには必要ないです。

 必要なのは、正確な棚あわせ、棚にあったコマセワークとコマセカゴの調整、正しい餌の付け方、しっかりとした仕掛け作り、魚の引きに逆らわないやりとり、です。「なんだ、そんなことはやってらい!」と思われるかもしれません。しかし、意外にこれらの基本テクニックをおざなりにしている釣り人は多いです。これらはすべて地味なテクニックです、そのため、工夫のしかたも地味になります。これらをきっちりと守って釣れないと、一見派手に見えるテクニックに走りたくなる人がほとんどではないでしょうか。しかし、それは実はコマセダイのchaosに入りこんでてしまうことになるのです。私は基本技術を徹底的に追求して極めることこそ、コマセダイに確実性を持たせる最短距離の方法だと考えています。

 あと、ひとつお断りしておくと、私は東京湾(久里浜沖〜松輪瀬)と相模湾(城ヶ島〜瀬ノ海)のコマセダイについては、人様にお話ができる程度の経験はありますが、その他の地域のコマセダイについては、それほど経験がありません。外房、南房、西伊豆、東伊豆、御前崎、伊豆諸島、新潟など、コマセダイの釣場は多く、そのそれぞれについても技術が存在します。各地でベーシックな技術は共通するものですが、細部に渡っては若干の差が生じます。ここでは主に東京湾のコマセダイについて記載してあります。

棚をあわせる

 「底からハリス分でやってみて」。誰もがこういう指示を受けたことがあるかと思います。底から棚をとる釣場ではよくある指示です。この指示にはクッションの長さは含まれません。たとえば、ハリス6mでクッション1mであれば、底にオモリが着いてから、6mの高さにビシをキープするわけです。「簡単じゃん、糸を6m巻けばいいじゃーん」と思いますよね。そう、それでいいのです^^;。

 ただし、いつでもどこでもそれでいいかと言えば、答えはNo。海には多かれ少なかれ、潮の流れというものがあります。船の流し方も、潮に乗せて流すこともあれば、船を止めて釣ることもあります(主に久里浜沖)。上潮と底潮の速さ、向きも完全に一致しません。この「潮」というパラメータが棚取りに影響してくるわけです。

 潮の流れの影響について細かく説明するのはここでは省略しますが、次のようなケースが生じる場合が多くあります。

    オモリが底についてから切った棚 ≠水深 − 底からの指示棚

 つまり、底から5mの棚を切ったつもりでも、実際には底から4mだったり、底から6mだったりすることがあるわけです。多くの場合は実際に棚をきったつもりの位置よりも下の場合が多いです。これは道糸が潮によってフケを生じるためです。たとえば、水深50mだけど糸は55mでていったとします。これは糸がふけているのと、オモリが真下ではなく潮下方向に着底したことから生じる誤差です。棚を切って時間が経つと、糸吹けは潮の速さとバランスをとって安定し、オモリは自分で切った棚よりも底に近づくことになります。また、船を潮に対して固定して、底潮が速い場合には道糸が受ける糸の抵抗によりビシが吹き上げられ、切った棚より浮き上がることがあります(これはアジ釣りなどのようなカカリ釣りでは多いですが、コマセダイではレアケースといって良いと思います)。

 つまり、単純に指示棚分を底から上げるだけでは、さまざまな要因により誤差が生じることがあるということです。この誤差を知る方法は、棚の取り直しです。仕掛けを入れ替えるときに、一度棚を取り直し、初期状態との誤差を意識しておくのが大切なことです。なので、常に自分が底から何mを釣っているのか?誤差はあるのか?誤差があればそれは時間の経過とともにどのように変化するのか?これらを意識しておいてください。誤差の値によって、次の投入の棚取りを高め(あるいは低め)にして、思い通りの棚をキープすることが、さいしょの大事な技術要素になるのです。

棚を探る

 コマセダイはフカセ釣りの一種です。釣り人がコントロールできるのはビシの位置で、長いハリスの先についている針の位置をコントロールすることは不可能です。ハリス6m+クッション1mの仕掛けでで、底からビシを7m上げた場合を考えてみてください。このとき、付け餌は底から何mの位置にあるでしょうか?(テンビンの腕長は無視するとします)。

 単純な計算をすると、7m-(6m+1m) = 0m で、底に餌がぴったり着いていることになります。これは、次の2つの条件下において真になります。
    ・ 湖のように、潮の流れがまったくない場所で船が静止している場合
    ・ 上潮から底潮まで、潮の流れが同一速度、同一方向で流れていて、船は上潮の流れと一致して移動している場合
しかし、実際には海ではこのような状況は起こりえません。潮の流れ、方向は似かよることはあっても一致することはなく、船長の操船の仕方で潮との速度差がでるからです。 ゆえに、餌は底より浮いていることになります。

 問題は、「どれだけ餌が浮いているだろうか?」ということです。実は、これはわからないことなのです。潮の流れだけではなく、各自が使っているハリスの比重(フロロかナイロンか)、太さ(表面積の違いから水中抵抗が変化する)によっても変わってきます。

 このため、釣り人は棚を探る必要があります。船長は長年の経験から、魚の反応の位置と潮の流れから、棚を指示してくれます。しかし、ときにはそれ以外の棚で食ってくることもあるのです。これは船長の指示が不正確というのではありません、様々なパラメータにより、棚が統一されないケースがある、ということです。わずか1mの棚の違いが明暗をわけるケースもあるのです。潮にあった、あるいは自分の仕掛けにあった食い棚を試行錯誤で見つけることが第2の技術要素です。

コマセワーク

 これまでの話は、コマセを使うことをあえて意識していませんでした。棚取り、棚探りに「コマセを撒く」というパラメータが加わることにより、複合された課題になります。このコマセワークの与える影響はこの釣りにおいて非常に大きく、特にタイの活性が高いときなど、多少の棚取りの差など吹っとばすくらいのウエイトを持ちます。

 魚の活性が高いとき、あるいは船の全員がビシ棚を固定して浮かせる場合などは、コマセワークは魚の遊泳層を意図的に変えてやるオペレーションであるといえます。しかし、東京湾や相模湾での多くのケースは、そこまでの効果を期待するよりも、コマセの中に付け餌を入れて食わせるカモフラージュ効果を狙うと考えた方がいいです。つまり、食い棚を操作するのではなく、食い棚にコマセを置く、という感覚です。

 このようなコマセワークをする場合、重要なのは「振ったときにコマセを出す」ということです。竿をしゃくることにより、ビシに加速度を与えて水圧を生じさせることによりコマセを放出するのです。置き竿でポロポロでていく、ようなコマセワークでは自分の意図したところにコマセを出せません。このため、あくまでコマセカゴは絞ることです。ステン缶を使うのであれば、穴は上側のひとつだけ残して全部ふさぐ、この調整でコマセを出し切れるような竿のしゃくり方が重要になります。

 コマセを撒く位置は棚を合わせる「途中」で複数に分けて撒きます。例えば、底から2m、3m、5mというように、竿の操作を行いコマセを出していきます。コマセを出す位置はその日の潮の速さや食い棚に合わせて変えていきます。これも試行錯誤によります。想定するイメージとしては、コマセを魚が食い終わる頃に付け餌がその中に入っていること。あくまでイメージですが、これを意識してやることが大切です。

餌の付け方、仕掛けなど

 餌はオキアミの一尾付け。これに限ります。本によっては抱き合わせで2尾掛けするような解説がありますが、私の経験上、2尾掛けして良いことはひとつもありません。しっかりとした型の良いオキアミを選んで尾羽を切り、丁寧に針をセンターに通す、これで十分です。

 仕掛けもシンプルなものがベスト。ハリスの太さ、針の大きさはタイの食いや外道の多少により変えることはありますが、 余計なアクセサリは不要です。私の標準はハリス2号を8m、これにマダイ針の7号を結んだだけです。アジやサバなどの外道の釣果を上げたいならともかく、タイを釣りたいなら仕掛けに小細工は不要です。

魚が掛かったら

 マダイは無理しなければ絶対にとれます。底へ戻るまでは強力ですが、底に戻ったときに止まるためです。ヒラマサやシマアジのように根を這うように泳ぎハリスが根ズレで切れることはあまり考えなくてよいです。一番よくある失敗パターンは魚と引っぱりっこしてしまうこと。これやると、細いハリスは一発です。魚の引きに合わせて糸を伸ばして、とにかく底までは相手の思い通りにさせてやることが大事です。浮かしては戻られ、の繰り返しで、タイの弱りを待ちます。特に高い棚で食わせたときに多いのですが、最初の突っ込みに対応しきれないケースが多いです。このため、ドラグは緩めにしておくことと、竿でためられる限界を知っておくことが大切になります。

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 かなり理屈っぽい内容になりましたが、実際に私はコマセダイは理屈で釣るものだと思っています。初心者でも一発があることから、運まかせの釣りのように考えている人もいますが、それは違います。釣れたときには釣れた理由、釣れないときには釣れない理由が必ず存在します。それらの理由をすべて解明することは不可能ですが、理屈を探索しながら釣ることが大切であると私は考えているわけです。まだまだ紹介しきれないこともたくさんありますが、基本的な棚取りとコマセワーク中心に書いてみました。これから春の乗っこみ狙いでコマセダイには良い季節、これを読んだ方が好釣果に恵まれることを願っています。

2002.03.22 Yasuhiro Ii

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