ひょんなことから、つり丸BBSのハマちゃん(ハンドルネーム)に釣られて、鴨居の立て釣りにいってきました。今回は釣行レポート風でいってみましょ!

***

 しばらく忘れていた言葉があった、「立て釣り」という言葉。鴨居の漁師さん達の間で行われている釣法だ。釣法というよりも漁法といった方が適切か。 雑誌やテレビ番組で紹介されることはほとんどない釣りで、今となってはこれをやる人はほとんどいないと言ってよい。骨董好き(?)のハマちゃんに誘われなかったら、今日鴨居にくることはなかっただろう。

 2001年6月3日。21世紀になって初めて鴨居の鯛釣りに訪れた。時代は変わろうが、この港は変化がない、もちろん良い意味で昔ながらの雰囲気を保っているのだ。港の沖を少し埋め立てて新しい船着場ができたけど、まあそれでも鴨居の落ち着いた雰囲気は健在だ。

 お世話になるのは隆治丸さん。普段は職漁で真鯛漁やワカメ漁を営む、こてこての漁師さんである。漁師さんといえば、ワイルドな海の男を想像する人が多いかもしれないけど、それはチープなイマジネーション。素朴で飾ったところがない穏やかな船長さんだ。鴨居の海を表わしているよう。2年前に乗せてもらった時は、船で14枚という好釣をさせてくれた静かながらも頼もしい船長さんである。

 さて、今日は若潮、時は6月に入ったばかり。実は、鴨居では決して条件の良い時期ではない。他の釣場では乗っこみ到来、大鯛乱舞と景気がいいが、鴨居の海はそういう盛り上がりはない。まだ水温が安定しない時期、潮さえ気にいれば真鯛は口を使うが、潮がダメだと打つ手なし、これは昔からのいわば「決まり」みたいなもんだ。

 船は久里浜沖へ向かう。釣り人は私、ハマちゃんの二人。そして船長さんも道具を出す。今日はハマちゃんが立て釣りを経験したいというリクエストだった。三人並んで取舵に座る。

 ポイントに着いた。とりあえず道具を落としてみる。糸の出から40mくらいか、船長に「40mくらいかな?」と尋ねてみる「そうだな、あるかないかだな」の返事。ハマちゃんに立ちの取り方を伝える。最初は戸惑っていたように見えたが、そこは器用さのせいかすぐに慣れたようだ。しかし、初めての人がすんなり立ちを取れるのは潮が動いてないということでもある。落としが効いているはずの時間帯だが、若潮という小さい潮周りのせいもあり、潮の動きが悪い。

 隆治丸は小さな船だ。GPSなんてものは当然ない。それどころか、ロランも魚探もない。船長は長年の経験から山立てで船を流す。鴨居の海の根の位置、潮がどう動けばどこで食うか、それらはすべて個人のノウハウとして蓄積されているのだ。巷で流行のKnowledge Managementとは対極の世界、職人の技術なのである。

 下げ潮のため、根の南側から船を流す、しかしアタリは全くない。「小鯛が食うかと思ったけどダメだな。深いとこいってみましょうか」。そう告げると船をアシカ島の東側に向けた。ここは深い、70-80mの水深である。食えば根回りに付いている良型のため、3-4kgが揃う場所。

 しかし、潮が動かない日は深場も具合が悪い。アタリはない。ハマちゃんは80mの深さに立ち取りに戸惑っている。当然だろう、潮が動かないとはいえ、水深が深ければ指先に加わる重さは微弱になってしまう。私も立ちを取るのに苦労している、これで潮が効いていたら立ちを取れる自信はない深さだ。

 落としが止まった。上げ潮を期待して船は移動。観音崎を望む30-40mダチ。ここは鴨居大根と呼ばれる場所で、上げ潮の定番ポイントである。まわりには鴨居のシャクリダイの船が数隻みえる。その中には、鴨居式シャクリの乗合をかたくなに守り続ける房丸の姿もある。高橋房男船長は昨年入院し船を休んでいて心配だったが、今日は元気そうな姿で船を操っている。ほっとするひと時だった。

 そういえば、TVで立て釣りが取り上げられたことが一度あったっけ。それは釣り番組ではなくてグルメ番組。極上の真鯛を求めて、女性リポーターが鴨居の港にやってくるという内容だった。その日は取材では釣れなかったけど、漁協に一枚だけ上がっていた鯛を追跡調査して、築地から料亭に流れるまでを追っていたっけ。鴨居の鯛は知るひとぞ知るブランド品。あぁ、一枚でも釣れればしゃっきりとしたテクスチャ、透き通った身質、脂に負けない旨味と、刺身の要素をすべて満足する鯛が食えるのだが…

 上げ潮が効くはずの時間、しかし潮は動かない。黙々とテンヤの上げ下げを繰り返すが、真鯛からのアタリは誰にも訪れない。 なんとか一枚でも食ってくれないかと集中するも、時間だけが過ぎていくのが早く感じられる。太陽も高く上り「上がりましょう。今日は食わない」船長の言葉で道具を仕舞った。

 私、ハマちゃん、そして船長、みんな仲良くボウズ。厳しい状況は事前に予想してたとはいえ、海の上に出て釣り糸を垂らせば、なんとしてでも一枚は上げたい気持ちになる。やはりボウズは残念。この日のような状況は何度も経験しているとはいえ、やはり釣れない釣りは悔しさが残るのだ。突発的に決定した今回の釣行だが、このボウズはここ数年薄れかけていた立て釣りへの情熱を再燃させてくれるものだった。今年内には必ず納得のいく釣りをしたいと強く思った。

 鴨居の良い時期は8月のお盆過ぎ、この頃から徐々に調子が上がり、10月にピークを迎える。この日の残念ははその時期まで心に仕舞っておこう。今日のところは、立て釣りへの思いを再燃させてくれたハマちゃんと、悪い潮況にも関わらず最後までなんとか釣らせよう(&自分でも釣ろう)としてくれた船長に感謝!

2001/6/3 Yasuhiro Ii

 

inserted by FC2 system