Most Traditional and Most Aggressive Tee fising - Tate zuri

      立て釣り - その伝統の中に潜む攻撃性

古今東西、真鯛釣りは最も人気の高い釣りであると言っていいでしょう。時代によって、地域によって、さまざまなスタイルの真鯛釣りが行われています。その中で、時代の流れに迎合せず、古くから脈々と受け継がれTいる釣りがある。それが鴨居の立て釣り(*1)です。

立て釣りの歴史

浦賀水道の南に位置する鴨居沖は、東京湾の干満差により潮通しの良い場所で、真鯛にとってはうってつけの生活環境になります。21世紀の今になっても、昔ながらの立て釣りで漁を行っている漁師さんがいます。古くは徳川幕府への献上鯛ともなった超上質の真鯛、それを育むのが鴨居の海なのです。漁の歴史は鎌倉時代まで遡るというので驚きです。

立て釣りってどんな釣り?

鴨居立て釣りのベスト釣果。3.3kgを頭に5枚。マダイ釣りの中で、最もエキサイティングな一日でした。糸枠に巻いてあるのはYGKパラゴンの8号。

コマセダイに代表されるように、今の真鯛釣りの主流は「フカセ釣り」になります。コマセダイの仕掛けを御存知の方は多いと思いますが、80号前後のコマセビシから、ハリスを出し、その先には針だけでオモリはつけません。棚取りはコマセビシの位置で行います。この方法だと、餌の位置を釣り人は正確に把握できません。

これに対し、立て釣りは針とオモリが一体になったテンヤを使います。テンヤの位置で棚をとります。つまり、棚の位置と餌の位置が同じになるわけです。餌が底に付いた、底から1m浮いた、釣り人はこれらの情報を把握可能になります。このように、直接餌の位置を把握するタックルを、「立て道具」と呼びます。これはオモリが底に着くことを「立つ」と言うことからです。立て道具の釣り、立て釣りの名前の由来です。

立て釣りの道具

この釣りは手釣りです。竿、リールは使いません。道糸、中オモリ、ハリス、テンヤ。これだけのシンプルな道具です。仕掛けのスペックは各人によって微妙に違いますが、ここでは私の仕掛けを中心に紹介してみます。

道糸:ポリエステルのブレイデッドラインを使う人が多いです。トトマスターは現在では入手困難のため、YGKから発売されているパラゴンが入手しやすいです。太さは8号。また、フロロカーボンのモノフィラメントラインを使うこともできます。水切れが良いのですが、捌きやすさという点では劣ります。最近では色々なタイプが市販されていますが、なるべく軟らかめのものを選ぶといいでしょう。

中オモリ:棒形の中オモリを使います。数は1丁付け、2丁付け、3丁付けとこれも各人各様ですが、私は6号と4号の2丁付けを使います。

ハリス:ナイロン、フロロカーボンどちらでも構いません。秋の小鯛シーズンには4号、春には5号が一般的です。中オモリからは6号のナイロンライン3ヒロを介し、ハリスを3ヒロ結びます。

テンヤ:この釣りの特徴となるのがテンヤです。10号を中心に浅場であれば8号、深場であれば12号を使います。テンヤの重さが軽ければ軽いほど食いは良いですが、中オモリの重さよりテンヤの重さが軽くなると、一気に立ち取りがシビアになります。自分で立ちを取れる範囲で軽くするのが良いでしょう。

餌:活きたアカエビを使います。頭を縛って付けるのが鴨居式。

釣り方も単純

釣り方は至ってシンプル。テンヤを沈めて、底に付いたら2ヒロくらい手繰りあげ、段をつけながらゆっくり底まで落とし、また手繰りあげの繰り返しです。言葉で書くととても簡単。しかし、潮の流れにより糸がふけるため、着底の判断が初めての人にはわかりにくいです。重いオモリのように、ドスンと底につきません。コツン、フワッ、表現にするとこんな感じ。小さなシグナルを見逃さないように集中が必要です。最大のポイントはここ、言い換えれば着底を判断する(これを「立ちを取る」といいます)ことができれば、立て釣りはほとんどマスターできたと言っていいでしょう。

アタリは明確にグィッと引っ張られることもあれば、フワッと食い上げたような感じのこともあります。アタリの出るタイミングは落とし込みだったり、手繰りあげだったり。つまり、アタリの出方はいろいろあります。疑わしいときは必ず合わせを入れましょう。合わせは即合わせが基本、素早く、大きく、糸を手繰って締め上げます。真鯛の場合、手繰る重みが徐々に増し、良型の場合は手繰る手が止められます。これで合わせが完了。やりとりに入ります。

やりとりは魚の引きに合わせること、真鯛が引いているときは腕でためます。必ず片手でためてください。大型の場合は糸を出してやりますが、この時にも常にテンションをかけていること。指先ドラグは、どんなリールよりも高性能でなければいけません。真鯛の引きは必ず止まります。止まったら手繰る、引いたら耐える、この繰り返しで魚を浮かせてきます。

立て釣りは攻め100%の釣り

立て釣りのメリットは何か?それは、真鯛の棚を積極的に、かつ正確に探ることが可能ということです。真鯛を食わすのに最も大切なのは棚です。フカセ釣りでは、正確に棚を探ることができません。コマセを使う釣りではコマセと付け餌を同調させるために棚を頻繁に変えることは逆効果でもあります。立て釣りは、底を取る、手繰るの一連の動作が、棚を探る役割を果たします。そして、動く餌に反応する真鯛の興味を引くための誘いにもなるわけです。

また、真鯛の好む根周りは、水深の差が激しいことがあります。船の流しにより、刻々と変化する棚に追従することは、常に棚取りを繰り返す立て釣りだからこそ可能なのです。

常に誘いのアクションと棚のリサーチを繰り返す、鯛釣りの中でもっとも積極的な釣りといえます。フカセ釣りが待ちを中心にした受けの釣りに対し、立て釣りは攻めの釣り、それも受動的な要素はなく、攻め100%の釣りと言えるでしょう。

なぜ、今の時代に立て釣りか?

鯛を釣ろうと思えば、現代ではより釣りやすい釣法、より釣れる釣場が数多くあります。あえて立て釣りを趣味とするのは、先達への敬意と、鯛釣りに対する好奇心を満たすためでしょうか。私はもちろんアマチュアで、プロ(漁師)の技術に対する憧れを、同じ釣法を行うことによって満足させる、ということも言えるかもしれません。

*1;鴨居では一本釣り、手釣り、テンヤ釣りと呼ばれることもあります。ここでは表記を立て釣りで統一します。

2001/6/3 Yasuhiro Ii

 

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