船長の技に痺れた、豊国丸から手バネ釣行

シャクリといえば竹岡港。古くからの鯛釣り船が軒並み並ぶ。ここで手バネのしゃくりをやりたいなー、と思っていたところに、つり丸ペンクラブの鈴ミツさんから仕立のお誘い。2つ返事で飛びついたのは言うまでもない、カラマタさん、bashiさんの仕立の仲間に入れてもらったのは豊国丸、文芸春秋のビデオにも登場した川島船長の船だ。出船前にはビデオ製作のプロデューサーに、さらにビデオ出演の桃尻まどかさんも釣りに訪れていた。いやが上にも盛り上がる雰囲気、餌の活アカエビをたっぷりと積んで曇天の海へいざ出陣!

8月12日、この日は小潮まわり、朝のうちは上げ潮で、10時くらいから下げ潮に変わる。船長が選んだポイントは久里浜沖。かもいと記されたブイのまわりを丹念に流す。指示棚は25ヒロ、食えば大きなポイントだそうだ。しかし、船中アタリはなく、東電沖へ移動、秋にはコマセダイ船団が集結する私にとっては馴染みのポイント、しかしここでもアタリなし。8時、船長は鴨居大根に向かった。ここからこの日のドラマが始まる。

船中1枚目は3.9kg

最初の一流し、いきなりbashiさんが掛けた。手繰る糸が止められ、指の間を滑っている、良い型だ!慎重かつ確実なやりとりの末に浮かせたのは3.9kgの立派なマダイ。さあ、鯛が口を使っている、頑張ってしゃくらねば。

私の竿にもアタリ到来。しゃくり上げた竿がクッと押さえ込まれるがこれはカサゴ。次にシャクリあげるとズシッとした重み、左手で糸をとり手繰るも重さは伝わらない、アワセがトロいか?潰されたエビが上がってきた。

船長は2本竿を操り、コンスタントに鯛を食わせる。鯛を掛けたままもう一本の竿を操作し続ける技はビデオでみた通り。見事なものだ。キロを超える型には自らタモ入れもしてしまう動作には美しささえ感じる。

私にまたアタリがきた。ちょっと慌ててしまい、左手で糸を手繰ろうとしたが手に引っかからない、再度竿を起こして引いて糸をとるも、魚の重みは消えていた。ビシマや立て釣りなど、手釣りに比べて難しいのはこのアワセの動作、竿から糸を持ち帰る動作をスムースにできない限り、まっとうな釣果は期待できないだろう。

反省をしているところにまたもやアタリ。今度はスムースに糸がとれる。左手で一手、右手に二手、三、四手と手繰ったところで糸が止められた。重い。これから鯛のつっこみが始まるはずだ、重みをキープしたまま、これからのやりとりに備え、竿を置こうとした、そのとき…軽くなってしまった。

アワセは良かったと思う、船長には「口の堅いところに針があたって刺さんなかったかな、今のはしょうがねえやな」と慰め。2kg超えはあるような重量感だったが、非常に悔しい。なによりも、ここまで3度のアタリをもらえたのにモノにできない未熟さが一番悔しい。

苦労の末の一枚は1.4kg

その後も、流し替えを繰り返し、下げ潮が効くなか船長、鈴みつ氏、鯛はぽつぽつとあたる。昼近くになり、私はまだ顔をみていない、そろそろ潮止まりも近そうだ。このままじゃボウズか…そんな不安が顔にでてるのか、ここまで6枚を上げている船長も「なんとか一枚掛かんないかなー」と気の毒そうな声。これじゃいかん....

「船長、餌の付け方みせてくれ」「しゃくり方はこれでいいか?」「私のインターバルは早い?遅い?」こういう時は何かを変えなければいけない、アドバイスを船長に求めて、ひたすらしゃくり続ける。

そして、この日最後のアタリがやってきた。しゃくり上げた竿がグッと持っていかれる。糸を取る間もなく魚が走った、手バネを満月にして耐える。でかいか?これ以上引いたら竿を投げようか、そう思った。しかし、ファーストランの後の突っ込みは弱く、竿がすんなりと立ち糸を取れた。すかさず2手ほど手繰って締める。ゴクン、ゴクンと頭を振る感触が手に伝わる、明らかなタイの引きだ。後は針はずれしないことを祈りつつ手繰り上げる、やはり鯛の引きはいい、指先から頭のてっぺんに抜ける快感、この一枚だけで、今日竹岡に来たことが楽しい思い出に残る。上がってきたのは1.4kgの綺麗な♀。たかが一枚、されど一枚、私にとっては大満足の一枚だ。この日の釣りはこれでおしまいでいい。

達人技をみた。枠からの糸だし、竿投げ、そして尻手でのやりとり

しかし、最後に船長がパフォーマンスを演じてくれた。私がタイのエア抜きをし終わったとき、船長の竿を強烈な引きが見舞った。船長の竿には尻手がない。すかさず糸巻きから糸を出す、十五手糸を出したという、それでも疾走は止まらない。糸を出したことにより余裕を得た船長は、尻手を付ける。その直後、竿は海中に吸い込まれた。

尻手を使ったやりとり。生でみるのは初めてだ。いったん投げた竿を引き上げる、引きを凌ぐ。再び投げる、竿は水泡とともに海中に吸い込まれる。見ていて危なさは感じない、それどころかやりとりの美しさに感動すらした。竿を投げること3度、そろそろ鯛の疾走もやむころだ。ギャラリーがそう思い始めたとき、「あ!」の嘆声。ばれてしまった。

仕掛けを上げると孫針のハリスが切られていた。「歯にあたったか…孫に掛かるとこれがある」船長は実に悔しそうな様子だ。先日5.3kgを上げたときは尻手までは使わなかったそうだ。逃がしたサイズは推して知るべし。

この日の船中釣果は10枚。うち6枚は船長の釣果だった。同じ餌、同じ棚、同じようなしゃくり方でこうも差がつく、釣果の差は技術の差にほかならないだろう。技術差はどこにあるか?それはまだ私にはわからない。これからさらに繰り返し経験を積むことで、見えてくればいいと思う。この釣りも、他の鯛釣り同様、奥の深い釣りであることは間違いない。

14:00。長い釣りが終わり船は鴨居大根を後に港へ向かう。密度の濃い釣行だった、東京湾のマダイの魅力を、またひとつ感じることができた日だった。

2001/8/13 Yasuhiro Ii

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